フライトジャケットとは何か ― ミリタリーの名作を時代順に解説 ―

正月の賑わいが落ち着き、冬の寒さが一段と厳しさを増すこの時期。日常の装いに確かな存在感を与えてくれるのが、フライトジャケットです。

極寒の空での任務を想定し、防寒性と機能性を追求して生まれたその背景には、モデルごとに明確な役割と進化の歴史があります。本特集では、代表的なフライトジャケットの種類と特徴を紐解き、その魅力を掘り下げていきます。

「フライトジャケットは、軍服でありながら完成されたプロダクトだった。」

戦闘機が進化するたびに、パイロットの装備もまた変化を求められました。

A-2に代表されるレザーフライト、B-15やそれぞれのモデルには、当時の技術水準と軍の思想が明確に刻まれています。

ヴィンテージとしての価値は、希少性だけで決まるものではありません。
なぜこの形なのか、なぜこの素材なのか…。
その理由を知った時、フライトジャケットは単なる古着ではなくなります。

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なぜフライトジャケットは種類が多いのか

 

「過酷な空の上で命を守るために生まれた。」

ミリタリーのフライトジャケットは、ファッションアイテムとして誕生した服ではありません。
それぞれのモデルは、時代ごとの航空技術や任務内容に応じて改良され、必要に迫られるかたちで生み出されていきました。

レザーが使われていた時代もあれば、ナイロンへと素材が切り替わった時代もあります。
丈の長さ、襟の使用、リブの有無…
その一つひとつに、明確な理由と背景が存在しています。

フライトジャケットに多くの種類があるのは、流行を追った結果ではありません。
「なぜ、その形でならなければいけなかったのか」
その問いに対する答えが、モデルごとの違いとして表れているのです。

本記事では、ミリタリー・フライトジャケットを代表するいくつかのモデルを取り上げ、それぞれの成り立ちや特徴を、時代背景とともに紐解いていきます。

フライトジャケットを理解するための基礎知識

フライトジャケットは、見た目の違い以上に「設計思想」を知ることで理解が深まる服です。
それぞれのモデルに共通するディティールには、空という特殊な環境で活動するための合理性が詰め込まれています。

フライトジャケットが短丈なわけ

フライトジャケットの多くが腰丈程度に抑えられているのは、操縦席という限られた空間での動作を前提としているためです。
長い着丈は、着席時に裾がもたつき、操縦桿やペダル操作の妨げになります。

また、コックピット内では上半身の動きが重要視されるため、「立った状態での防寒」よりも「座った状態での可動性」が優先されました。
この思想が、フライトジャケット特有のコンパクトなシルエットを形づくっています。

リブ仕様が果たす本当の役割

袖口や裾に配されたリブは、デザイン的なアクセントではありません。
高高度では、わずかな隙間から侵入する冷気が致命的になることもあります。

リブによっては身体への密着度を高めることで、風の侵入を防ぎ、同時に体温を効率よく保持する役割を担っていました。
さらに、操縦時にそ袖がずり上がるのを防ぐという実用面での効果もあります。

襟の仕様が示す任務の違い

フライトジャケットの襟は、モデルごとに大きく異なります。
A-2やG-1に見られるレザー襟やムートン襟は、防寒性を最優先した設計です。

一方で、後期モデルになるにつれ、襟は簡素化されていきます。
これはジェット機の登場により、酸素マスクやヘルメットとの干渉を避ける必要が生じたためです。
襟の変化ひとつ取っても、航空設備全体との関係性が読み取れます。

素材の変遷が語る航空技術の進化

初期のフライトジャケットにレザーが多用された理由は、防風性と耐久性に優れていたからです。
しかし、機体性能の向上と飛行高度の変化に伴い、軽量性と保温効率が求められるようになります。

その結果、ナイロン素材が採用されるようになりました。
ナイロンは軽く、量産性に優れ、濡れても性能が落ちにくい。
こうした特性は、戦後の軍需環境とも合致していました。

ライニング(裏地)が担う役割

ムートンやウール、中綿など、ライニングの仕様もモデルごとに異なります。
これは単なる防寒性能の差ではなく、想定される飛行高度や任務時間の違いによるものです。

たとえば、極寒環境を想定したモデルではムートンが使われ、比較的温度管理された機体内を想定したモデルでは中綿仕様へと移行していきます。

フライトジャケットは「機能の集合体」

ポケットの配置、ジッパーの形状、補強の入れ方。
それらはすべて、実用性から導き出された要素です。

フライトジャケットは、装飾を加えて完成した服ではありません。
必要なものだけを残し、不要なものを削ぎ落とした結果として完成した服です。
その合理性こそが、時代を越えて支持され続ける理由と言えるでしょう。

ミリタリージャケット・フライトジャケットを時代順に紐解く

フライトジャケットは、ひとつの完成形が突然生まれたわけではありません。
航空機の進化、飛行高度の変化、任務内容の多様化に合わせて、少しずつ姿を変えてきました。
ここでは、代表的なモデルを時代順に追いながら、その変遷を見ていきます。

A-2

フライトジャケットの原点(1931年〜)

A-2は、1931年にアメリカ陸軍航空隊(USAAF)によって採用されたモデルです。
それまでのフライトウェアを整理・統一する目的で誕生し、「フライトジャケット」という概念を決定づけた存在と言えます。

特徴と設計思想

・マテリアル:ホースハイド、ゴートスキンなどのレザー
・フロント:ボタン留めフラップ付きポケット×2
・襟:台襟付きのレザー
・袖:ウールリブ

当時の航空機は与圧設備がなく、風防性と耐久性が最重要視されていました。
レザーが採用されたのは、防風性と耐摩耗性に優れていたためです。

ヴィンテージとしてのA-2

A-2は第二次世界大戦期に多く生産されましたが、戦後になるとレザーは重く、寒冷地では保温性に限界があるという課題が浮き彫りになります。
その結果、1950年代初頭に正式装備から外されます。

それでもなお、A-2は「原点」として現在

も語り継がれ、
フライトジャケット=A-2というイメージを持つ人も少なくありません。

B-3

 

極寒の高高度に対応するための装備(1934年〜)

B-3フライトジャケットは、1934年にアメリカ陸軍航空隊(USAAF)によって採用されたモデルです。
A-2と同じ時代に存在しながら、その設計思想は大きく異なります。

A-2が「可動性と汎用性」を重視したフライトジャケットであるのに対し、B-3は極寒環境での防寒性を最優先に設計された装備でした。

B-3が想定していた環境

1930年代〜40年代初頭の爆撃機は、与圧設備を持たず、
高高度では氷点下を大きく下回る環境での飛行が常態でした。
そうした状況下で、薄手のレザージャケットでは対応できず、結果として誕生したのが、ムートンを全面に使用したB-3です。

特徴的なディテール

 

• マテリアル:シープスキン(ムートン)
• シルエット:非常にボリュームのある短丈
• 襟:大型のムートン襟+ストラップ
• フロント:ジッパー+防風用フラップ
• 袖口・裾:ムートン切り替え

すべての仕様が、防寒性と防風性に直結しています。
デザイン性よりも、生存性を最優先した構造です。

なぜB-3は短命だったのか

 

B-3は防寒性能において非常に優れていましたが、
一方で重量があり、動きにくいという欠点も抱えていました。

第二次世界大戦後半になると、
• 航空機性能の向上
• 与圧キャビンの登場
• より軽量な素材の開発

といった要因が重なり、B-3のような重装備は次第に役割を終えていきます。

ヴィンテージとしてのB-3

B-3は「実用性の最適解」ではなく、
特定の時代・環境における最大防寒装備として存在したモデルです。
そのため生産数も限られ、現在ではヴィンテージ市場において希少性の高い存在となっています。

ファッションとして見ると非常にインパクトがありますが、
背景を知ることで、単なるボリュームアウターではなく、当時の航空史そのものを纏う一着として捉えることができます。

G-1

海軍仕様というもう一つの系譜(1947年〜)

G-1は、アメリカ海軍(USN)および海兵隊(USMC)で採用されたフライトジャケットです。
陸軍航空隊のA-2に対し、海軍独自の環境と任務を反映したモデルとなっています。

A-2との主な違い

・襟:ムートン(ボア)襟
・レザー:ゴートスキンが主流
・裏地:レーヨンやコットン
・内側にUSNパンチング(通気孔)を持つモデルも存在

海上任務では、湿気や風への対策が重要でした。
ゴートスキンはしなやかで耐水性に優れ、海軍向きの素材とされています。

カルチャーとの関係

G-1は映画「トップガン」などの影響もあり、A-2とは異なる文脈でファッションアイコン化していきました。

B-10/B-15

レザーからナイロンへの転換期(1943年〜)

第二次世界大戦後半から戦後にかけて、航空機は急速に進化します。
それに伴い、レザー製フライトジャケットの限界が明確になっていきました。

B-10(1943年採用)

・マテリアル:コットンシェル
・襟:アルパカライニング
・初めて「布製」が本格採用されたモデル

B-10は、レザーに代わる素材を模索した実験的かつ重要な存在です。

B-15(1944年〜)

 

• マテリアル:ナイロン
• 襟:ムートン
• 特徴:オキシジェンタブ、ペンポケット

ナイロンは軽量で、濡れても性能が落ちにくく、量産性にも優れていました。
B-15は、後のMA-1へと直結する過渡期モデルです。

MA-1

フライトジャケットの完成形(1950年代〜)

MA-1は、1950年代にアメリカ空軍(USAF)で採用されたモデルです。
ジェット機時代に対応した設計で、それまでの問題点を解消した完成度の高い一着でした。

MA-1の革新性

• 襟:ノーカラー(ヘルメット・酸素マスク対策)
• マテリアル:ナイロンツイル
• 裏地:レスキューオレンジ
• 中綿仕様(インターミディエイトゾーン向け)

レスキューオレンジは、墜落時に裏返して着用することで視認性を高めるための仕様です。

民間へ広がった理由

MA-1は、実用性の高さとシンプルなデザインから、軍を離れた後も民間市場で支持されるようになります。
1970年代以降、ストリートやサブカルチャーとも結びつき、現在では「ミリタリーウェア」という枠を越えた存在となりました。

フライトジャケットの進化が示すもの

A-2からMA-1に至るまでの流れは、素材の進化=航空技術の進化そのものです。
装飾を目的とせず、必要に迫られて生まれたデザインは、結果として時代を越えて残り続けました。
ヴィンテージとしてフライトジャケットを見るとき、その背景を知ることで、一着の価値は大きく変わります。

N-2B

極寒地用ナイロンフライトの到達点(1950年代後半~)

N-2Bは、1950年代後半にアメリカ空軍(USAF)で採用されたフライトジャケットです。
MA-1と同じくナイロン製ですが、N-2Bはより寒冷な環境での使用を前提に設計されています。

N-2Bが生まれた背景

ジェット機の時代に入り、航空機の性能は大きく向上しました。一方で、地上待機時や寒冷地基地での任務では、依然として高い防寒性が求められていました。
MA-1が「中間温度帯(インターミディエイトゾーン)」向けであるのに対し、N-2Bは寒冷地・低温環境(ヘビーゾーン)での使用を想定した装備です。

特徴的なディテール

 

• マテリアル:ナイロン
• 着丈:やや長め(腰〜ヒップ付近)
• フード:ムートン(またはファー)付きフード
• フロント:ジッパー+防風フラップ
• 裏地:中綿仕様

最大の特徴は、首元まで覆う防寒フードです。
これは、地上での作業や待機時に体温低下を防ぐための設計で、MA-1にはない実用的な装備でした。

ヴィンテージとしてのN-2B

N-2Bは、フライトジャケットの中でも比較的ボリュームがあり、ミリタリー感の強いシルエットを持っています。
B-3ほど極端ではないものの、「ナイロン製でここまで防寒性を高めた」という点で、フライトジャケットの進化の一到達点と言える存在です。

CWU

フライトジャケットの現代化(1970年代~)

CWU(Cold Weather Uniform)シリーズは、1970年代以降に採用された、より現代的なフライトジャケットです。
それまでのMA-1やN-2Bに代わる存在として登場しました。

代表的なのが、
• CWU-36/P(ライトゾーン)
• CWU-45/P(ヘビーゾーン)
の2モデルです。

CWUシリーズ誕生の背景

1970年代になると、航空機はさらに高度化し、パイロットの装備にも耐火性・安全性が強く求められるようになります。

CWUシリーズでは、ナイロンではなく難燃素材(アラミド繊維/ノーメックス)が採用されました。
これは、火災時の安全性を考慮した大きな進化です。

CWU-36/P と CWU-45/P の違い

CWU-36/P
• 中綿なし
• 比較的軽量
• 温暖〜中間温度帯向け

CWU-45/P
• 中綿入り
• 防寒性重視
• 寒冷地対応

どちらも、MA-1に似たシルエットを持ちながら、より機能的・合理的な設計へと進化しています。

ディテールの変化

• 襟:ノーカラー
• ポケット:斜め配置(アクセス性向上)
• フロント:ベルクロ(面ファスナー)の使用
• マテリアル:難燃素材

これらはすべて、操縦中の安全性と即応性を高めるための改良です。

ヴィンテージとしてのCWU

CWUシリーズは、「いかにもヴィンテージ」という雰囲気は控えめですが、フライトジャケットの完成度としては非常に高いモデルです。
MA-1がカルチャーと結びついた存在だとすれば、CWUはあくまで実用品としての最適解です。
だからこそ、ミリタリーの流れを理解した上で見ると、非常に評価しがいのある一着と言えます。

まとめ ~フライトジャケットは「時代の選択」の積み重ね~

フライトジャケットの歴史を時代順に辿ると、
その進化が単なるデザインの変化ではなかったことが見えてきます。

A-2に代表されるレザーフライトは、
当時の航空環境において考え得る最適解でした。
一方で、B-3のような重装備は、極寒という限定された条件下で命を守るための装備として存在していました。

その後、航空機の性能向上と任務内容の変化により、
フライトジャケットは軽量化と合理化の道を進みます。
B-10、B-15を経て生まれたMA-1は、機能性と汎用性のバランスにおいて、一つの完成形と言える存在でした。

さらに、N-2BやCWUシリーズでは、
寒冷地対応や安全性といった、より具体的な要求が反映されていきます。
そこには「新しいから優れている」という単純な進化論ではなく、環境や用途に応じて選び続けてきた歴史があります。

ヴィンテージとしてフライトジャケットを見る面白さは、
希少性や見た目の迫力だけにあるわけではありません。
なぜこの形なのか、なぜこの素材なのか——
その背景を知ることで、一着の価値は確かに深まります。

フライトジャケットは、空を飛ぶために生まれ、
やがて地上の装いとして定着しました。
その過程で削ぎ落とされ、選び抜かれてきた機能美こそが、
今もなお人を惹きつけ続ける理由なのかもしれません。

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