チノパンといえば、普段着だけでなくビジネスシーンでも着用され、男性なら1本以上持っている方が多いのではないでしょうか?シンプルな色遣いやスタイルで、どんなコーディネートにも合わせやすく、女性向けのコーディネート特集も雑誌で組まれるほど、老若男女問わず安定した人気のある便利なアイテム。
今回は、そんなチノパン誕生の歴史と特徴をお話したいと思います。チノパンを普段何気なく履いていらっしゃるそこのアナタ!要チェック!
なんと・・・チノパンは軍服だった!
1846年、インドに駐留していたイギリス軍は、彼らの軍服が真っ白であることに悩みを抱えていました。彼らの真っ白なズボンがインドの土地に馴染まず、敵から目立ってしまうという欠点があり、戦闘には不向きなユニフォームだったのです。
そこで機転を利かせたのが、当時の連隊長であったハリー・ラムズデン卿。彼は白の軍服を、カレー粉、コーヒー、桑の実を混ぜた汁を使い、インドの土地の色そっくりな色に染め上げたのです。そしてこの時できた色が「カーキ色」。「カーキ(Khaki)」というのはヒンドゥー語で「土埃」「土色」という意味。”インドの土の色に染まったパンツ”は、まさに戦闘のカモフラージュにぴったりなものでした。
またカーキ色のパンツは、戦闘で出血した際に、血が黒みがかった赤に変わることで、兵士がパニックを起こしにくいのです。そのため第二次アフガン戦争(1878~81年)でその利点が認められ、第二次ボーア戦争(1899〜1902年)では、上下ともカーキ色の軍服が英国陸軍に採用されました。
ここで余談ですが、皆さんは「カーキ色」と聞いてどんな色を思い出すでしょうか?多くの方は「くすんだグリーン」を思い出すかもしれませんが、実は日本でいう「ベージュ」のこと。このような認識をしているのは、実は日本だけ。海外では左が「オリーブ・ドラブ」、右が「カーキ」と、きちんと区別されているんです!こちらも合わせて覚えておくと、ファッション上級者間違いなしです◎
イギリス軍人の機転によって生まれた、「カーキ色」の軍服が、現在の”チノパン”の起源。皆さんはご存知でしたでしょうか?
その後、チノパンはアメリカ軍へと渡る。
ラムズデン卿の機転から生まれたカーキ色のズボンは、産業革命の発信地であるイギリス・マンチェスターで大量に織られ(左の画像は、筆者がマンチェスターに滞在していたときに撮影したもので、当時の製糸機械を再現したもの。)、その余剰品がインドから中国に輸出されていました。
1898年、アメリカ軍はスペインとの戦争に勝利し、フィリピンを統治することが決まっていたため、フィリピン駐在用の軍服としてチノパンを中国から大量に買い付けたことで、アメリカ軍に渡ることになるのです。
「チノ(chino)」という言葉は、スペイン語で「中国」という意味。アメリカ軍が上陸する以前、フィリピンがスペイン軍に植民地支配されていたことに由来しています。
少し分かりづらいですが、「インド→中国→フィリピンと渡ってきた軍服を、アメリカ軍がスペイン語で呼んでいる」ということですね!
アメリカ軍は、第一次世界大戦後まで軍服に興味を示すことはありませんでしたが、ナチの台頭によりヨーロッパで戦争が起こるようになると、機能的な軍服を求めざるを得ない状況になりました。そこで1941年に開発されたのが、カリフォルニアコットンをカーキ色で染めたM41戦闘服。現在では41(ヨンイチ)カーキと呼ばれ、ヴィンテージアイテムとして魅力を感じさせるものになっています。
その後、”43カーキ”、”45カーキ”も登場しましたが、最も数少ないと言われているのが第二次世界大戦真っ只中に活躍した「43カーキ」。QMタグ(古いミリタリーにつくタグ)、フロントに付く対毒ガス用のガスフラップ、尿素樹脂を用いたボタン、ウォッチポケットとバックポケットは両玉縁になっており、細く長いベルトループが特徴となっています。
ちなみに、41カーキの特徴は、43カーキとほぼ同じですが、ガスフラップがなく、フロントボタンがARMYと刻印されたメタルボタンになります。
45カーキは足のラインのサイドシームがダブルステッチ、バックポケットが片玉縁、尿素ボタンが特徴で50年代初頭で姿を消すディテールになります。
参考として、当店で過去にお取り扱いのあった43カーキ、45カーキのディテールをご紹介します◎
まずは43カーキから。
▲こちらが43カーキのフロント部分。細く長いベルトループが印象的で、尿素ボタンが使用されています。尿素樹脂はプラスチックが使用される前の素材で、現在は見られなくなっています。
▲ポケットが両玉縁になっています。
▲こちらはガスフラップと呼ばれ、フロントボタンの部分に生地を足して内側にフラップを作っています。ズボンの隙間から毒ガスが入らないよう、設計されたカバーのようなものです。
▲こちらは43カーキのものではありませんが、QMタグとはこのような表記になっているものです。
続いて、45カーキをご紹介!
▲尿素ボタン
▲45カーキはポケットが片玉縁となっており、サイドシームがダブルステッチに。
※41カーキにつきましては貴重なアイテムのため、現状入荷がなく、ディテールを紹介することができません。ご了承ください。
時代や用途と共に、素材も変化。
現在、チノパンに使用されている布は「チノクロス」と呼ばれており、素材はバーバリーのトレンチコートに使用されている「ギャバジン」と似ています。チノクロスは、ギャバジンに比べて少し軽く、薄くなっています。これは、単糸(多数の糸を撚り合わせたものではなく一本の糸で、細い。)を使って織られているから。そして、チノクロスは左上から右下(逆綾)で織られているのが特徴です。
これに対し、アメリカ軍が使用している生地は、「ウエストポイント(通称:ウエポン)」と呼ばれており、41カーキの流れを受け継ぐもので、綾目(斜線状に入った織り目のこと)の向きが右上から左下(正綾)で双糸(2本の糸を撚って1本にした糸)を使用しています。
▲こちらは当店取り扱いのラルフローレンのチノパンですが、スジの入り方が左上から右下のチノクロスになります。
▲そして先ほどご紹介した当店取り扱いの米軍実品の45カーキ。少々わかりづらいですが、右上から左下にスジが通っているのが見えますでしょうか?
ちなみに、ウエストポイントというのは和製英語で、アメリカでは「ユニフォームツイル」と呼ばれているんです。「ツイル(Twill)」というのは綾織物の総称!まさに、”ユニフォームに使用される綾織物”、という意味になっていますね。
とっても奥が深いミリタリーアイテム、チノパンツ。
いかがでしたでしょうか。
これだけでは理解できない方もきっと多いかもしれません!というくらい奥が深いチノパン。チノパンがミリタリーアイテムだということを初めて知った方も多いのではないでしょうか?
「ちょっとそこまで」の時にも気軽に履けるチノパンには、実はこんなに深い歴史が刻まれていたんです。そしてこちらの記事を読み、チノパンにより一層の魅力を感じていただければ幸いです!
古着屋JAMでは、チノパンを豊富にご用意してお待ちしておりますので、「なんとなく便利だから買っていた」という方は、歴史に思いを馳せながら、是非もう一本ご購入していただくのはいかがでしょうか?そして今後チノパンを履くときには、今回ご紹介したチノパン誕生の背景も踏まえながらお出かけしてみてください◎